福岡地方裁判所小倉支部 昭和39年(ワ)419号 判決 1965年8月27日
原告 丸和商事株式会社
被告 社団法人北九州銀行協会
被告補助参加人 国
訴訟代理人 和田臣司 外四名
主文
原告の請求を棄却する。
本訴の訴訟費用及び参加によつて生じた訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
原告が有限会社とりや商店に対する小倉簡易裁判所昭和三九年(ロ)第七八号、同第八〇号約束手形金債権についての仮執行宣言付支払命令正本に基づき、有限会社とりや商店が被告に対し、右約束手形の不渡による取引停止処分の猶予をたけるため、小倉信用金庫木町支店を通じ、被告に提供した異議申立提供金三〇万円の返還請求権ありとし、その債権に対し、被告を第三に務者として、福岡地方裁判所小倉支部昭和三九年(ル)第八三〇号、同(ヲ)例第八四三号債権差押ならびに取立命令をえ、右命令が昭和三九年五月一日被告に送達されたことは、当事者間に争いがない。
成立に争いのない乙第一号証(北九州手形交換規則)、証人重住茂の証言、被告協会代表者本人尋問の結果によると、手形不渡による取引停止処分の猶予は、不渡手形の届出に対し、その手形を返還した銀行(返還銀行)が、信用に関しないもとの認め、不渡返還日の翌日の営業時限まで、不渡手形金額に相当する現金を提供して、異議を申立てた場合となるもので、異議申立提供金は、所定の事由が発生したとき、請求により、異議申立銀行(返還銀行)に返還することになつていることが認められる。右認定に反する証拠は採用しない。
従つて、手形の支払義務者は、被告協会に直接異議申立提供金を提供することはできず、しかも、同人が不渡手形の支払銀行(返還銀行に現金を委託して、右銀行を通じ被告協会にこれを提供した結果、右処分の猶予を受けたものであつても、支払銀行(返還銀行)の提供金の預託は、同銀行が手形交換所加盟銀行の立場でなすものであつて、手形の支払義務者の代理人としてなすものではないから、手形の支払義務者は、手形交換所に対して、直接提供金返還請求権を有するものではなく、単に右銀行が提供金の返還を受けたときに、右銀行に対し提供金の返還を求うるに過ぎない、と解するのが相当である。
前掲証拠及び成立に争いのない甲第一、二、号証、乙第二、三号証、証人古賀五郎、同田中金夫の証言によれば、有限会社とりや商店は、本件手形の不渡による取引停止処分の猶予を受けるために、右手形金額に相当する金額の三〇万円を支払銀行(返還銀行)である小倉信用金庫木町支店に委託し、右金庫から三〇万円を異議申立提供金として被告協会に提供したことが認められるところ、前説示のとおり本件手形の支払義務者である有限会社とりや商店は、直接被告協会に対し、右提供金の返還を請求しえず、将来右金庫が被告協会から提供金の返還を受けたとき、右金庫に対して提供金の返還を求めるに過ぎないのであり、しかも提供金は、手形の支払義務者である右会社に支払能力のあることを証明する手段として、提供するに過ぎず、手形債務相当性質を有するものでないから、原告の右会社を執行債務者とする強制執行においては、小倉信用金庫を第三債務者とすべきであつて、被告協会を第三債務者とするのは正当でない。
すると、右と異る見解にたつて、被告協会を第三債務者とし、右提供金の返還を求める原告の本訴請求は、すでに失当というべく排斥の外ない。
よつて、訴訟費用の負担につき、民訴第八九条、第九四条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 田畑常彦)